イーガンとかいう仇敵
俺の初イーガンは「順列都市」だった。あまりの難解さにブチ切れて一回放り投げたけど、結局数週間後に読破した。その時に決めた。絶対にイーガンを読みこなせるようになってやると。
どうもイーガンは長編だととっつきにくい一方で短編は割と読めるようす。で、本作「しあわせの理由」をチョイス。
読んでみるとムスカばりに「読める…読めるぞ!」状態に。ハードSFなので当然仕組みの説明に大半の紙面が割かれることになるが、短編なおかげで余計な脇道に逸れにくいというのが良いのかも。
個人的なヒットは「適切な愛」「闇の中へ」「道徳的ウイルス学者」「血をわけた姉妹」
半分くらいはあたりだったかな。
おれが生物専攻なのが多分に影響してるけど、細菌とかウイルスとかDNA周りの話はロジックがすんなり入ってきて読んでて大変面白い。
適切な愛 ★★★★☆
事故で死に瀕している夫を助けるには、新しい身体のコピーに脳を移植するしかない。しかしコピーを作るのに2年かかる。その2年間、夫の脳を自分の子宮で生き延びさせる女性の話。
夫は無事蘇生されるが、事故に遭う前と同じような夫への感情を持つことは困難に…。なぜならば子宮で保護することで、彼女の身体は夫の脳を””子供””と認識したがってしまったから。
タイトルを「適切な愛」にしたのは秀逸っすね。
しかしこの子宮で保護する方法が選ばれた理由が、彼らの入っていた保険が「最安の方法で脳を保存する」契約になってたからってのがイイね。つい最近までは最安の方法は専用の生命維持装置で保存することだったんだけど、新しい廉価な方法が開発されてしまったことによる悲劇だね。
闇の中へ ★★★★★
突然地球上の陸地に現れる半径1kmの漆黒の半球ドーム。平均18分で消失するその中に囚われた人間は、そのままでは死あるのみ。ただし漆黒の半球は二重になっており、内部の半径200mは普段通りの安全地帯。
ドームは中心に向かってしか進めない。外向きにはほとんど一切の動きが封じられる。
漆黒のドームに囚われた住民を、安全地帯まで導く後戻り不可の救出ミッションに挑む話。
これが1番好きかも。設定に引き込まれる。
自分から見て中心側は全くの漆黒なのに、外側は見えるというのがいいね。そして戻れないということも。
この現象そのものが人生のメタファーというのにはやられた。
愛撫 ★★☆☆☆
主人公の警官は、殺された生物学者宅の地下から、身体は豹で頭部は人間の女性という生物を発見した。
彼女は1800年代に「愛撫」という絵画に描かれていた。
捜査をすすめると、絵画のシーンを三次元で再現することに心酔する異常者がかつて存在したことがわかる…。
まーSFとしちゃ微妙かなあ。
野﨑まどみのある超常異常者がやや小物感
道徳的ウイルス学者 ★★★★☆
同性愛者と浮気者をぶっ殺すウイルスを世界中にばら撒く狂信テロリストの話。
ウイルスの設計が非常にエレガント。なのに決定的な設計の瑕疵に気付けず、最後は人間の良心に頼ろうとするところがアイロニックですね。そもそも人間の良心を信用してなかったからこのウイルスを作ったのにね。
これはほとんど設定資料ですね。小説の範疇ではないですね。
でもSFってのはそれが面白いんじゃないですかあ。
移相夢 ★★★☆☆
順列都市と同じ、人格をコピーしてコンピュータの中で不老不死になろう!の話。
コピーした人格をサーバ内で再構築する際に、””コピーされた人格が見る夢””が移相夢。
まあそれはよくわからん。ちょっとオチが適当だったかな。怖かったけど。
順列都市の時も思ったのは、このテクノロジーが自分自身を不老不死にするわけではないことにみんな気づかないんすかね?ということ。
意味ねえよな。要するに、突然ある時点までの自分の記憶を共有した一卵性の双子が発生して、そっちが不老不死になるってだけじゃん?俺は死ぬじゃん。俺はさ。
みんな頭悪いんか???
チェルノブイリの聖母 ★☆☆☆☆
急にクッッソつまらんのブチ込んでくるやんけ。
なんやこれ。全然面白くねえ…。
とある絵画を相場の数十倍の値段で落札したのに、輸送中に消失してしまい、その捜索を頼まれた私立探偵の話。
信仰がらみになってくるとどうもピンとこないのでね。海のあっち側の人たちとは違って日本人の多くはなんも信じてないのでね。
これはつまらんかった。
ボーダー・ガード ★★☆☆☆
“””量子サッカー”””とかいうクッソ悪ふざけ。
現実のサッカーが小説で描写されてたって俺にはなにやってんのかわかんねえっつうのに、架空のアホスポーツの戦況を説明してもらったって何も解りゃしねえんだわ。
誰が意味わかるんだよこれ。でも意味わかんなくても別に良さそう。解説を求めてググったら誰1人何も理解してなかった。全員宇宙猫状態。
ほんでこの量子サッカーが大して本筋に絡んでこないのが謎い。50ページの短編のうち15ページを使って?!
要は死を克服した世界の話。人が死なないようになった時点で存在していた人と、それ以後に何世代にもわたって生まれ生存している人とでは「死の概念」が違う。現実味といいますか。
戦争を見聞きしても実際に自分の住む場所が戦場になったことはないみたいな感じかな。
血をわけた姉妹 ★★★★☆
生物兵器を作るのに、博士号を持った人間に時間労働させるのは勿体無い。むしろ突然変異の修復機構を阻害し、ウイルスにどんどん突然変異を起こさせることで偶然発生する大当たりを待とう。
と、思ってたら研究室外に流出してしまった。流出後も変異が繰り返され、""特定の遺伝子""を持つ人間にとっては致命的な病毒となるウイルスになってしまいました。
それに羅漢してしまった主人公カレン、気になるのは一卵性双生児のポーラ。なぜならば彼女は自分と完全に同一のゲノムを持つのだから。
という話。
いいすね〜こういう生物工学と情報工学がどっちも絡んでくるのは大好物っすね〜。
しあわせの理由 ★★★☆☆
表題作だけど個人的には微妙〜。
癌によって偶然脳内の快楽物質の分泌が促進された主人公。ずっとしあわせな気分。でも治療によって癌が治るとしあわせな気分も消えてしまった。
保険会社からの最低限の生活費で荒んだ生活を送っているところに、無料で再治療してくれるというメッセージが届き…。
なんすかね。やっばりですね、イーガンに求めてるのはロジックやアイデアっすね、俺は。
架空の社会、架空のテクノロジーの上で人間が何を思いどんな行動を取るのか、という。
そういう意味じゃ本作はそれらしいんだけど、どうもハマらんかったね、表題作なのに。
本作のベスト短編は
「闇の中へ」ですね。
現象そのものが人生のメタファーである点、確率の誤謬、オチ、全部面白かったのは「闇の中へ」
以上