コールドスリープってなんか怖いよね。
これだから乾くるみはやめられねえ
サウナ探偵です。
コールドスリープ(冷凍睡眠)ってあれ眠る瞬間クソ怖いと思わん?解凍してもらえなかったらとか、思わねえのかな?
でも歳を取らずに未来の世界や文化、科学技術に触れることができるのはちょっと興味ある。
コールドスリープが実現した世界で、自分の意思とは関係なく冷凍され30年後に蘇った少女を描く「スリープ/乾くるみ」をご紹介する。
テレビ番組の人気リポーター・羽鳥亜里沙は、中学卒業を間近にした二月、冷凍睡眠装置の研究をする“未来科学研究所”を取材するために、つくば市に向かうことになった。撮影の休憩中に、ふと悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまうのだが。どんでん返しの魔術師が放つ傑作ミステリー、待望の文庫化。
「スリープ」乾くるみより
乾くるみはいつでも上質な驚きを届けてくれる稀有な作家である。最後の20ページまで風呂敷を広げ、「オイオイこれ収束すんのか?」と思わせといて一気に全てが明らかになるストーリーには脱帽モノだ。ヤミツキである。
代表作の「イニシエーション・ラブ」や「セカンド・ラブ」などの恋愛ミステリ、タイムリープを題材にした「リピート」など、どれも最後の大仕掛けで強烈に驚かせてくれる。
そんなどんでん返しの魔術師とも呼ばれる乾くるみ氏が放つ美少女SFミステリー小説が「スリープ」だ。
不幸美少女 羽鳥亜里沙
主人公は科学番組の中学生レポーター羽鳥亜里沙。IQの高い子供たちから選ばれたのに容姿も抜群な、賢い×可愛いアイドルレポーター。
素人なのにネットを中心に話題となり、出演番組は2年目も継続、と思いきや、突然姿を消す。海外留学したらしい。
と、いうことに、表向きにはなっている。
実は番組の取材で訪れた「未来科学研究所」で不幸な事故に巻き込まれていたのであった。
一瞬に感じられたホワイトアウトの後、彼女は30年後の2036年に目覚めることになる。しかし当然2036年の世界に14歳の容姿のままの亜里沙が存在することは「ありえない」。自分を冷凍睡眠から救ってくれたかつての同僚中学生レポーター戸松君(今は44歳)と共に、世間から身を隠して生きていく困難を描く。
美少女って大体不幸になるよな。
上質な近未来設定
そして描かれる2036年の世界が超オモシロイ。
日本が大統領制になり、地域区分は道州制に。2026年に起きた大震災で12万人の命が失われた世界。
雨に濡れても一瞬で乾く技術「瞬乾」。顔面に貼り付ける仮面「マスキン」。ハロウィンばりの服装の自由さ。一方で30年前とほとんど変わらない技術もしばしば。
コールドスリープされた人の解凍は、原則禁止(???)。
本作の未来は2036年という近未来で、あまりに突拍子もない世界ではなく、現実の延長線と思えるところがいい。技術的な部分もあっさりな割にしっかり考えられている。
この一作の使い捨て設定にするのは惜しい。
やっぱりひっくり返る
他の乾くるみ作品よろしく、本作も大胆にひっくり返る。文庫の裏にどんでん返しが云々書いてあるしネタバレもクソもない。
本作は普通に読めば、研究所に取材に行った中学生レポーターがトラブルに巻き込まれて冷凍睡眠し、30年後に蘇り、科学技術の革新に触れ、人目を忍んで逃げ、自分を救った救世主と共に生きていく話、のように見える。
だが第9章以降で読者は大混乱に突き落とされることになる。何がなんだか分からなくなってしまう。何が現実なのか、これは西暦何年なのか、誰が誰なのか、何が真実なのか。
これ以上は是非読んでみて確かめてほしい。
全部忘れて楽しんだらいい
と、ゴチャゴチャ言ったが、読み出したらそういうのは忘れてもらっていい。
「イニシエーション・ラブ」の読者ならばわかるだろう。乾くるみ作品を読むときには、何気なく登場する商品や固有名詞について、時代設定や矛盾点がないか、記述の仕方に違和感がないか、血眼になって気を配ってしまう。
あの「完全にひっくり返る世界」を見破りたい。
しかしこの記述が怪しいとかどうとか考えてると純粋に物語を楽しめないし、驚きも半減である。
オチを予想するな。
まとめ
どんでん返しの魔術師乾くるみのSFミステリーの傑作「スリープ」を紹介した。
未来の世界って、ワクワクするよな。
ほとんど答えと言っていいほどあからさまな伏線が張られているのに最後まで気付けず、すっかり騙されちまったなあ。
いやー面白かった。
「スリープ」がおすすめの人
・美少女が主人公なら何でもいい人
・技術設定がしっかりしてるSFが好き
・「イニシエーション・ラブ」の次に読む本を探してる
おわり。
他の記事