感想っていうか解説っていうか概略っていうか紹介っていうかあらすじっていうか
だって感想なんておもしれ〜か、スゲ〜か、わかんねぇ〜しかねえもん。このおっさんの場合。
ハードSFなんで基本は前提を規定した上での思考実験、箱庭遊び。短編なんで設定の説明が主になってくるけど、それをどんだけおもしろく、興味を惹きつけるかってとこが軸なんすかね。評価の。知らんけど?
全体的に前に読んだ『しあわせの理由』よりも面白かった。と思う。よりわかりやすいというか、エンタメ面が強いというか。
おれのSFリテラシーが上がったわけではないと思う。
ほんでイーガンはやっぱり基本「アイデンティティ危機」をテーマにする感じなんすね。
カッコは強調、二重カッコは作品名、ダブルコーテーションは作中用語を表すことにしておく。
ネタバレはありでいきます。
貸金庫 ★★★★☆
毎朝起きるたびに別の人間の人生を生きている。
同じ年齢、同じ町に住む、千人の男を無作為に渡りながら。
おれには自我はあるが身体は日替わりだし仕事も毎日変わる。人格が昨日と同じであると偽りながら、"""宿主"""に迷惑がかからないように1日をこなす。
おれは寄生虫だ。
これもおもしろいっすねえ。
人格入れ替わりってのはよくあるけど、完全にフローティングな人格があちこちを渡り回るってのは見たことがない。新海誠『君の名は。』の着想のひとつらしいっすね。
トンデモ現象の思考実験だけじゃなく、なんとなく一応の解決、オチがつくのはいいすね。
キューティ ★★★★☆
何らかの理由で子供を持たない(持てない)人向けのサービスとして、幼児生成キットが商品化した世界。
キットによって生成された子供(キューティ)は生物的には人間だが、遺伝子操作によって知性が抑えられており、4歳の誕生日に必ず死ぬ。故に法的に人権はない。可愛い時期だけを切り抜いた、期限付きのペットという位置付けの生命。
本作はいわゆる生命倫理がテーマと思う。
この世界観では、知性が劣っているという理由でキューティは人間と見なされないのが常識となっている。が、なんらかの手違いで人間並の知能を獲得してしまった場合、人間と見做されるべきなのに4歳で死ぬことが決まった存在となってしまう…。
キューティの仕組み、倫理観、生じる問題のどれもがよく出来ていて、20頁の短編として見事ですねぇ。
ただどうもネットの書評を見ると伝わり切ってないようで誤読が多いみたいだった。
ポイントは海賊版である(正規品の品質ではない)ことと、意味のある単語を喋ったことだと思う。
ぼくになることを ★★★★★
これはねぇ、いいですよぉ。
どうやら別短編集『しあわせの理由』に収録の『ボーダーガード』の前日譚のよう。あっちはクソ未来スポーツ"""量子サッカー"""にもってかれすぎてあんま飲み込めなかったんですけれども。
この世界の人間は、幼い頃から脳にバックアップデバイス""宝石""を組み込まれ、常に入力と出力を実際の脳に同期させた状態になっている。いわばサーバのホットスタンバイみたいな状態。つまり冗長化。
で、人間の脳は30代を過ぎると衰えてくるので、身体の制御をソリッドな""宝石""に切り替え、本体の脳はドロドロに掻き出され廃棄される。
""宝石""はこれまでの人生で生体の脳と全く同じ入出力を学習してるので、以後も完璧に同じ役割を演じることができる。(と期待されている)
これが新時代の不老不死のソリューション。
アホかと。
でも『順列都市』とか『移相夢』で微妙にはぐらかされてた「コピーは残っても、でも""この俺""は死ぬじゃん」の部分をきちんと論じてて良い。むしろここでちゃんとやってるから他の作品では飛ばされてるのか?な?初期作っぽいし。
まあ当然やっぱり制御奪われる方の人格は身体が動かない恐怖と共に死ぬんじゃんっていう。
でも同期が完璧に作用してたらぶっ壊される最後になってもわかんねえのか。これはイレギュラーの話。
繭 ★★★☆☆
胎児は母体と胎盤を通じて体液を共有してるので、母体の持つウイルスや毒素や薬品の影響を受けてしまう。遺伝子操作で胎盤の機能を強化して、胎児と共有する成分をより選択的にするバイオ技術が開発された。
んでその施設が爆破され消滅。バックアップサンプルも放射線で破壊。その放射性物質の出所を探っていくと人類社会を揺るがす陰謀が明らかになり…
という話。
イーガンの話ってごく個人的な葛藤を描くものと社会全体をぶん回すものに大きく分かれると思っていて、本作は後者。
真相が明らかになっていく過程は警察小説みもあってなかなか読み進めるのに苦労しない。
世界が変えられることとそれを阻止すること、どちらに転んでも主人公のアイデンティティを揺るがす結果になるのがおもしろい。
百光年ダイアリー ★★★☆☆
おれの物理の素養が足りないせいで詳しい仕組みは理解できなかった。
ストーリーとしては、こんなかんじ。
時間の進みが我々の銀河とは逆行する銀河がみつかった。それをどうにか利用することで過去に情報を送れるようになった。
以後の社会では、人は、自分が生まれるよりも前に、未来の自分から日記が届くようになる。人生は、未来から受信した日記をなぞるだけの既定路線になる。そして毎日、自分が受信したのと同じ内容の日記を送信することになる。
その既定路線を逸れることはできるのか?みたいな話。ちょっとニュアンスは違うかも。
序盤でくじかれてモチベ下がるけど別につまんなくはない。
誘拐 ★★★☆☆
これ順列都市の後日談?だよねぇ!「後日」の定義は置いておくとして。
画商の男に映話(要はテレビ電話)がかかってくる。
お前の妻を誘拐した。身代金を払え。映話に映るのは監禁された妻。
いたずらであると一縷の望みをかけて自宅に映話したら、妻、いる。
やっぱりイタズラじゃねえかよ。
いやでも一瞬でも俺を騙すほどに精巧な偽映像をつくれるのか…?
という話。
順列都市のスキャン&コピー概念が無説明で出てくるので初見だと混乱しそう。
要は誘拐犯が見せていたのは、「自分のスキャンファイルから取り出した妻の記憶を元に、サーバで走らせたプログラム人間」だった。
いややっぱり順列都市通ってないと意味不明だな。要はもクソもねえな。
コピー人格をサーバで走らせたプログラムが「人間」とみなされる倫理観の世界なので、生身の妻が無事であろうとコピー人格がサーバ内で苛まれるのは耐えられない、プログラムを停止しておくために身代金を払う、という理屈。
まあわからんでもないけど、共感するにはこの世界観に頭まで浸かる必要があるな。
放浪者の軌道 ★☆☆☆☆
つまらん。
理解しきれてないのはあるとして、そういうものとして読み進めてもだから何としかならん。興味なし。
とりあえず独自概念を表す単語は説明してから出してほしい。
ある日を境に人間は思想や価値観がダダ漏れになって、思想体系ごとにまとまった空間?領域?=""アトラクタ""が無数に発生した。特定のアトラクタに囚われて思想を固定したくない者は""放浪者""として、アトラクタの隙間を縫って生きることになる…。
ほーん。で???
オチはシールを台紙から剥がしてのこった枠もシール、みたいな。
自分の選択だと思ってたものが、実は大いなるダイナミズムの上だった、みたいな。まあ目新しさはないね。
これはちょっとナシかな。つまらん。まじで。
ミトコンドリア・イヴ★★☆☆☆
つまらん。
ミトコンドリアのDNAは必ず母親から受け継がれるため、全人類を遡っていけばある時点でただ1人の女性に行き着くことができるという仮説がある。これがミトコンドリア・イヴ。
だから人類みな家族、みんな仲良し!という理屈で活動してる宗教じみた団体がある。
従来の研究ではDNAに生じる変異の頻度を利用してどれくらい近しい血縁かを測っていた。
が、量子もつれを応用したらもっと正確に家系図書けるんじゃね?そしたらもっとミトコンドリア・イヴの権威つよくなんじゃね?(暴論)
という理屈で頑張ってたら""Y染色体・アダム""とかいうカス団体も出てきて…。
世界平和、統一を目指したのに結局は主張の違うカスの団体が乱立して世界は混沌に。ミトコンドリア・イヴ陣営もここで引くわけにはいかないとかいう大義を失った本末転倒。
SF成分と政治、宗教成分が分離しちゃってて面白くない。
無限の暗殺者 ★☆☆☆☆
つまらん。
3連続つまらん。
興味を惹きつけられない。
後半に向けてどんどんつまんなくなる。
モチベが下がる。
並行世界が無数に存在する世界。
夢の中で好きな並行世界の自分になれるドラッグが流行。でも使ったら死刑。隔離地域でなら可。コソコソやられるより出ていってくれた方がいいので。
このドラッグが危険なのは、ごく少数の特異体質のひとが夢を超えて並行世界の自分と物理的に成り変われることにある。そいつが物理的に並行世界に飛ぼうとすると、周りを巻き込んでグチャグチャになって大惨事になるのでヤバい。
ので殺す。
という話。
ちょっと抽象度が高くなってくるとついていけなくなってつまんなくなるな。
イェユーカ ★★★☆☆
持ち返した。
なかなかおもしろい。
医療が発達した世界。指輪一個で血流をモニタリングして、異常を検出したら即治療。癌は恐れるに値しなくなった。その指輪がクッソ高いんですけど。
なので発展途上国は未だに医療が進んでいません。新しい腫瘍性の病気イェユーカが猛威を奮っています。
主人公は外科医。先進国じゃ用済み一歩手前なので途上国に行って執刀します。
そこで起きた医療ミスから発覚する陰謀。医療だってビジネス。
絶対にイェユーカを研究、解明してやるぜ。腫瘍ができて手遅れになる前に検出するシステムをよ。
そして脱力モンの結末。
これはテクノロジーとビジネス、貧困がうまく絡んでなんとも後味の悪さがいいですねぇ。目の前の患者を救うのに手段は選んでられねえんだよォ!っつってな。
誰が言うのかは置いといてな。
祈りの海 ★★☆☆☆
別におもしろくはない。
でも苦痛さはそれほどなかったので星2。
信仰だと思ってたもの、神のご加護だと思っていたものが化学反応だったっていう、まあ割とインパクトは弱めのオチ。
あらすじまとめんのはちょっとダリィわ。
これこんなダラダラした中編じゃなくて、スパッと30頁の短編でキメてればもっと面白かったんじゃないかなあ。
チンコが千切れて移動する仕組みとか必要なかっただろ。
まとめ
ベストは『ぼくになることを』。
次点で『キューティ』かな。『貸金庫』と『繭』も捨てがたい。
どうもわかりやすいSFガジェットが出てくる話が好みっぽい。
抽象的、観念的すぎるやつはキチィわ。
あと宗教絡んでくると共感が無理になるので他人事っすね。
前半は全部おもしろくておすすめだけど後半は惰性で読んでた。
発想の面白さとかは認めるけど、『放浪者の軌道』より後ろのは読書体験としての面白さはなかったな。
以上


