鈴と小鳥とそれから私とサウナ

無限に読めます「少女星間漂流記」東崎惟子 感想 良質なマイルドSFソフト百合


こんなんナンボでも読めますやん!!

これいいヨォ

ども、サウナ探偵です。
ソフト百合でマイルドSFな一粒で2度美味しい短編集があります。
これです。

「少女星間漂流記」東崎惟子

「竜殺しのブリュンヒルド」で革命的デビューを果たした東崎惟子氏の新シリーズ。
ウェブ連載もしてたんやけど、どうも横書きで小説読むのが苦手で追えてなかったので書籍化はありがたい。

皮肉で風刺的でアイロニカルでシニカルでいいですね。全部同じ意味だけどな。

色んな星を巡って、そこで出会う星人とか生物とか環境とかとの関わりを描く短編が15発。
キノの旅とか魔女の旅々が好きな人は間違いなく好きなやつだよ。

あらすじ

人間は地球に住めなくなり、各々新天地を求めて個人的に宇宙進出をした。
2人の少女リドリーワタリも、馬車型の宇宙船に乗って移住先の星を探している。

死者を生き返らせてくれる星、原住民がつる草で出来ている星、謎かけをする化け物がいる星、原住民が全員魅力的な女性の星…。

住んでも良さそうだと思えても、彼女たちは否応なくその星の秘密を暴いてしまう。

移住先の星は、まだみつかっていない。

よくもまあこんだけ

いろんな種族と、それらの欺瞞を思いつくわ。

人間に限らず、あらゆる種族の歪みや常識、それによって人間が被る不利益などを描いている。
でもどれも嫌味ったらしかったり後味の悪さだったりが無いのは、主人公サイドが淡白系だからかな。わりとサクサクハイ次って感じなんよな。

そう、後味がむしろ爽やかなんだよ。
こんだけ色んな角度からエグさを見せられといてね。星ごと滅亡レベルの欺瞞さえあるっつうのに。
これは著者のひとつの独自性だと思う。

www.sauna-detective.com

SFとして秀逸

ほんで本作はSFとしても優秀と思う。
SFの本質(と俺が勝手に思ってる)である「思考実験」の部分が非常に効いてる。

例えば映画「エイリアン」でいえば「この生物は幼体を他の生物の腹腔内に寄生させる必要があり、そのための独立器官として卵から生まれるフェイスハガーという過程がある」みたいな。

そういう「こういう生態の種族(生物)だったら、こういう風に他の種族を食い物にする」というアイデアを軽い文体で読みやすい短編に落とし込んだのが本作。

だから最初にマイルドSFって言ったのは、語り口がマイルドだというだけで、設定は割とハードSFにもなりうる強さを持ってると思う。
ただこの強さは軽い文体だからこそ生きてる気もするので、ガチガチに長編ハードSFを書いてほしいとかはあんまり思わない。

ってか主人公のリドリーはエイリアンの監督リドリー・スコットからとったのかと思ってたけど、ワタリとリドリーで渡り鳥だったんだな。

特に好きな話

俺が特に好きだったのは、愛の星、悪の星、鳴の星、謎の星、あたり。
このへんは必読です。

特に「鳴の星」なんかは本作の中でも特別短い一作なんだけど、著者自身が人類社会に対して抱いてる不満を吐き出したようにも見えて好き。
他はあくまで思いついた「しくみ」をストーリー化したように見えるけど、鳴の星はどうしても入れたかった一作、みたいな気がする。

あと愛の星、ぐう好き。
どちらが本来の姿か、みたいなとこが好き。

あとは百合

これですわ。
いわゆるソフト百合だけどね。少女同士の絆的な。俺は広義の百合のなかでも恋愛関係になったり性的なアレになってくるとあんまりノレないので、百合といってもこのへんの「特別仲良し」くらいの塩梅が好きですね。

おれの百合の原点はマリみてなのでそういうことになる。だからまあ狭義の百合で言ったら百合じゃねえんだけど。定義なんかどうだっていいじゃねえか。

"""イイ"""かどうかでいったら本作の二人の関係も圧倒的に"""イイ"""。
そういうことでございますよ。

無限に読めるから一生続けてほしい。
作者は宇宙が終わっても書き続けるつもりみてえだしな。

おわり。