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【読書記録】「ジェリーフィッシュは凍らない」市川憂人 26回鮎川哲也賞受賞作品


かわうそです。
第26回鮎川哲也賞受賞作、市川憂人氏「ジェリーフィッシュは凍らない」を読みました。


鮎川哲也賞といえば、第22回の平成のエラリークイーン青崎有吾氏「体育館の殺人」は既読。
一本の傘から展開される緻密な理詰めトリックと探偵役裏染天馬の異質なキャラクターが特徴的な作品だった。
第27回の、今村昌弘氏「屍人荘の殺人」も読みたいと思ってる。
12/13公開の映画も楽しみ。
小説と映画どっちを先に見ようかっていうのは永遠の迷い感あるよね。

ところで僕は個人的なミステリの趣味としては、理詰めの謎解きよりも、衝撃の1発の方が好み。
徐々に明らかになる緻密な穴埋めの達成感よりも、コペルニクス的転回で横っ面をひっぱたかれるアドレナリンが欲しい。
有栖川有栖よりも、綾辻行人派。
どっちも好きだけれど。有栖川氏の「双頭の悪魔」はサイコーだったからな…。

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)



そんなわけなので、「ジェリーフィッシュは凍らない」の帯にあった、「十角館の殺人への挑戦」という売り文句には俄然期待してしまった。
「21世紀のそして誰もいなくなった」とも書いてあったけど、そして誰も〜は個人的にはそんなになので、十角館にアンテナがビンビン。
(いわゆるクローズドサークルのパイオニアとして後作に影響を与えた功績はすごいけど、そして誰も〜自体は割と退屈だった。)
久し振りにブックオ◯ではなく書店で新品文庫を購入し、ワクワクしながら開いた。

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)




※以下ネタバレがあります。


あらすじ


舞台は1980年代のある大国U国。
特殊技術により開発された小型の飛行船「ジェリーフィッシュ」。
さらなる機能開発を経た次世代機の飛行試験中、開発部研究員6名を乗せた新型ジェリーフィッシュは雪山に不時着する。
完全に孤立し、救助を待つしかない開発部メンバー。
数日後、全焼した新型ジェリーフィッシュと6人の”他殺死体”が発見される。
犯人は死亡した6人の中にいたのか?それとも外部の人間の犯行か?!
U国の刑事、マリアとレンが事件の謎に迫る。
という内容。

事件の真相は以下の通り。
ジェリーフィッシュの真の開発者はレベッカという故人の女の子であり、この功績を奪ったのがジェリーフィッシュ開発部メンバー。
・殺人事件の犯人は開発部メンバーの1人で、レベッカが働いていたおもちゃ屋へ子供時代に通っていた少年。
・彼はレベッカからジェリーフィッシュ開発に至るまでの実験ノートを渡されていたため、開発部メンバーがレベッカの功績を奪ったことに気づく。
・大人になった少年は、開発部メンバーに復讐するため、開発部の1人に接触し、自らも7人目のメンバーとして開発部に潜り込み、全員の殺害計画を決行する。
・犯人はあらかじめ開発部メンバーの1人をバラバラにして実験機内に持ち込んでいた。
5人を殺害後、犯人はバラバラ死体を6人目の被害者に偽装し、ジェリーフィッシュに火を放つ。
対照実験のため、新旧のジェリーフィッシュ2機を同時に飛行実験していたが、外向けの計画書には、新型の飛行実験のみと偽装しており、犯人は燃やしていない方のジェリーフィッシュで逃亡していた。
以上がざっくりとした事件の真相。


総評


結論から言うと、少し期待はずれだった。
先の理詰めか衝撃かの話になるけど、「ジェリーフィッシュは凍らない」はクローズドサークルではあるけど、読み味は前者、理詰めタイプだった。
十角館の殺人」の例の1行の衝撃を期待してしまったため、肩透かしを食らった気分。
スパーンとどんでん返される感じではなかった。

良かったところ


ジェリーフィッシュは凍らない」、プロットとトリックは素晴らしい。
理系ならば「なぜそこに気づかなかったんだ!」と思わず膝を叩きたくなる対照実験のトリックも秀逸だし、序盤から軽く叙述トリックも入っていて、「なるほどここはこんな記述だったのか」と唸る出来。
理系チックな小難しいような話が出てくると、オタクは文系に対して優越感を感じ、いい気分になってくるのである。
犯人の人格や生き方を象徴した「ジェリーフィッシュは凍らない」というタイトルも秀逸だと思った。

気になったところ


全体的に文章が読みにくいのが気になってしまった。
なかなか頭に状況を描くことが出来ないのが読者のストレスを招く。というか僕のストレスを招いた。(僕の読解力が終わってるか、相性が悪いだけかもしれん)
物語になかなか引き込まれず、続きが気にならないのがすごく残念。
外野からゴチャゴチャ言うのもアレだけど、このストーリーでもっとスラスラ頭に入ってくる文章だったらかなり満足感があったと思う。
ただ、どちらにしても犯人の動機とか人物像があまりにぼんやりしてるので、そこには共感が持てず。
登場人物がそこそこの人数出てくる割にキャラが薄く、カタカナ名で覚えづらいため、いや誰の話してんの今ってなることがしばしば。
登場人物一覧がほしかったな。
プロットとトリックは本当に目の付け所に感心したので、あー面白かったとスッキリさせてほしかった。

まとめ


そして誰もいなくなったへの挑戦」には頷けるものの、「十角館の殺人への挑戦」には首を傾げてしまった。
全体の構成は確かに「十角館の殺人」を意識しているのを感じるけれど、一番の特徴と言えるネタバラシの鮮やかさ、たった1行で全てが覆る爽快感を求めてしまうと物足りなさが目立ってしまう。
十角館の殺人」を引き合いに出してしまったがために読む前にハードルが上がりすぎてし感は否めない。
そうでなければ普通に面白い上質なミステリだと思う。

ジェリーフィッシュは凍らない」をオススメできる人


・文体云々よりもプロットやトリック重視の人
・一気読み派の人
・「そして誰もいなくなった」が好きな人
・一撃必殺のどんでん返しを求めているわけではない人
・徐々に明らかになる真相が好きな人。

ジェリーフィッシュは凍らない」をオススメできない人


・文章の読みやすさ重視の人
・理解できない理系の話が出てくるとイライラする人
・犯人の動機に世間一般的な納得感を求める人
・「十角館の殺人」の例の1行を期待してる人

おわり。

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

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