待望のシリーズ3巻
剣崎比留子シリーズ3作目じゃい!!
読んでみた。青鬼だな、これ。
いや、ありがちとかいうつもりじゃないのよ。
ありふれたネタでも面白くしたもん勝ちなのだから。
あらゆる作品において、先駆者の功績は「初めにやった」というだけで、その系譜を継いだ面白い作品は認められて当然だと思うわけよ。
正直、異形のバケモンが登場した時はワクワクが半端なかったぜ…。
あらすじ
数々の事件を解決してきた神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子は、ある日、製薬大手企業の社長から極秘の依頼を受ける。
目的は、過去に非人道的な人体実験を行なっていた""斑目機関""の研究成果を手に入れること。向かうは地方テーマパーク内にそびえ立つ兇人邸(きょうじんてい)。
屈強な傭兵を従え潜入に成功するも、彼らを待ち受けていたのは殺戮にとらわれた異形の巨人。
巨人により次々に命が奪われていく中、明らかに巨人の仕業でない他殺体がみつかり…
みたいな話。
今回も見事な特殊設定
特殊設定がね、やっぱり見事ですよ。
もはやネタバレもクソもないと思う、と断っておいて。
1作目「屍人荘の殺人」ではゾンビアタックによる立て篭もりによりクローズドサークル化。
2作目「魔眼の匣の殺人」では予言者登場。
ほんでこの3作目「兇人邸の殺人」では進撃の巨人(2m超級奇行種)によって主要キャラがスパスパ殺される。
まじでスパスパ。大鉈で一刀両断。首チョンパ。
「兇」って漢字、他で見たことがねえよ。禍々しすぎだろ。
なんやかんやで舞台となる兇人邸から出られなくなってしまって、どうする?アイフル?みたいな状態。
このシリーズはこう、特殊ミステリーというよりもパニックホラーアクションという側面が強い印象。そして今作は全2作に比べるとそれがかなり強い。
1作目は外にゾンビがいるから出ていけない、って話だったけど、今作は建物の中にバケモンがいて直接人間を殺し回る。この特殊な状況はしっかりラストに効いてくる。ロジックは非常にエレガント。殺人事件の解決シーンにはお見事と拍手を送りたい。
だがロジックが見事だからといって両手放しで賞賛できるわけではない。
バケモンのインパクトに殺人事件が霞む
というのも、その推理パートが心底どうでもいい。
なぜならば巨人のインパクトが強すぎる。
巨人に5人も6人も殺されてる状況下で、殺人事件が起きたところで興味がねえ。
殺人事件がマジでどうでもいい。
前半で散々巨人の脅威が強調されて、読者としては巨人VS人間の構図になっちゃってんですわ。この時点ですでにメインストリームはモンスターパニックなんですわ。
巨人を出し抜いて脱出しよう!という大目的に向けて全員が動いてるのに、なぜか葉村くんは殺人事件が気になって仕方がない。俺は気になってない。俺は気になってねえぞ。そこ、真面目にやりなさい。
そして殺人事件がどうでも良くなっちゃう理由がもう一つある。
ここ以降、シリーズのネタバレあるので注意。
3作目まで読んで気付いた
それは、このシリーズ、犯人の動機が弱い。
別の言い方をすると、犯人に共感できない。
さらに別の言い方をすると、犯人の「変なこだわり」が根底に置かれているので、そこが腹落ちしないと全部が「だから何」になる。
犯人指摘に至る論理構成は納得感があり確かにそれしかない!ってストンとくるんだけど、動機が…。
1作目は「ゾンビにしてから殺せば憎い奴を2回も殺せる」
2作目は「自分より先に予言された規定人数死ねば自分は死ななくて済む」
3作目は「殺人者になってしまった彼女と同じ罪を背負うために自分も殺人者になろう(どういう価値観なんだ…)」
まあ言いたいことはわかるけれども…。ね…。
あっと驚くような意外な動機ということなのだと思うけど、""俺にとっては""逆効果だったかな。
まとめ
屍人荘の殺人シリーズ?の3作目「兇人邸の殺人」を読んでみた。
そしたら2作目までに感じてたおもしれーけどなんかモヤるなあという謎の感情に答えが出てしまった。
このシリーズの面白いポイントは以下だと思う。
・特殊設定がワクワクする
・特殊設定がキッチリ推理の論理に組み込まれている
そしてこのシリーズがモヤるポイントは以下だと思う。
・特殊設定の方がメインになってしまうので推理パートが邪魔
・殺人事件に興味が持てない
ミステリーなのに殺人事件が蛇足に思えてしまうという新手のシリーズなのだった。
好みとか感性の問題だけどね。
おわり。