鈴と小鳥とそれから私とサウナ

「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコ 感想 とんでもねえもんを読んでしまった


勉強ができるだけのボンボンのカスが地獄に落ちる話。
〜Happy End〜


これ、それ系統のトラウマがなければ必読やわ。まじで。

とんでもない小説を読んだ

ども、サウナ探偵です。
女性は絶対に読まない方がいいと話題の「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコを読んだ。

2016年に実際に起きた、東大生による集団強制わいせつ事件に着想を得たフィクションだ。

いやはや、とんでもない。
馬力がすごい。パワーが雪崩。
これねぇ、過去にそういうトラウマがないならまじで必読級だわ。
こういう人生の解像度変わってくる小説ってそうそう無いよ。

やや著者の思想が前面に出過ぎな感じするけど、間違ったことは何も言ってないのが耳の痛い話。

まずどんだけエグい話か簡単にまとめる。

あらすじを簡単に

ネタバレとかの話じゃないから全部書く。

大学生の神立美咲と竹内つばさ。
かたや偏差値48の女子大生、かたや東大生
イベントで相席した2人はその場で恋に落ちる。東大とは無関係に。純粋に惹かれあって。

数ヶ月後にはつばさは他の女に目移りし、やがて美咲への興味を失っていく。
ひととき彼女だった美咲はセフレに降格。 最後には東大生仲間の飲み会でバカにして楽しむために呼びつける要員へと成り下がる。
彼女は頭が悪いから。
が、つばさへの恋心を捨てきれない美咲はついていく。

東大生5人は美咲の服を脱がし、肛門を割り箸で突き、カップラーメンをこぼして遊んだ。泣き出す美咲に「何泣いてんだよっ」と100%悪意のない声をかけ背中を叩くつばさ。

東大生には美咲を犯すつもりさえなかった。楽しい飲み会のつもりだった。逃げ出した美咲の通報により東大生は逮捕されるが、ネットで叩かれたのは美咲だった。

「ノコノコついて行ったくせにちょっと触られたくらいで騒ぐ勘違いバカ女」と。

どこまでも歪な事象

印象的なのは、美咲が「性的な対象」ですらなかったこと。
酒を飲まされて、服を脱がされて、でも犯されるわけでもなくただただ笑い物にされ。

「私がされている””これ””はいったいなんなのか?」と思ったことだろう。

東大生の彼らには悪気がない。飲み会で盛り上がりたかっただけ。
東大生という全能感が彼らの感性を鈍らせる。偏差値50以下の女子大生をただ単にバカにしておもちゃにして面白がる。この"""異常さ"""に誰も気づけない。

そもそも、飲み会で盛り上がろうって話であれば、面識のねえ女を呼ぶ時点で不可解だろ…。共通の話題がない女を呼んでも微妙な空気になるのわかるだろ…。

彼らにはその微妙な空気という概念すらなかった。彼らが呼んだのは「バカ女子大のオモチャ」だから。彼らにとって美咲は人間ですらなかった。おもちゃの居心地が悪そうだなんて夢にも思わない。

そう、この話は「女子大生を性的に弄んだ」話ではなく、「東大生が東大生以外をみくびって侮ってバカにした」話なのだ。
みくびりすぎて悪ノリがすぎて、他者の心の機微に鈍感なあまり取り返しのつかない事態となってしまった話なのだ。

「東大生による集団強制わいせつ事件の話」と紹介するのはあまりに本書への解像度が低いだろう。

薄っぺらい東大生たち

で、こいつらは周り全員見下してる割に結局何もしてねえの。浅ぇなって。というのはサークルを隠れ蓑にポルノ撮って売って、見た目がよけりゃ自分らで食って、その繰り返し。やってることが半グレかチンピラと同じ。
東大生にはもちっと文化的でいて欲しいよな。
こいつらは所属が東大なだけのカスだよ。くだらねえ。

彼らにまっっったく悪気がないってのがすごいね。お見それいたした。
傲慢で驕った東大生の心理をまざまざと表現する一方で、まともな東大生が1人も出てこないあたり、微妙に著者の思想を感じるけど。

作中にはしきりに「東大生である彼らにそんなことを考える暇はない」みたいなこと書かれてる。本当にそうなんだろうね。自分の所属に誇りがある奴は、自分にとって取るに足らない事象のことなんか考えもしないだろうね。

その心理が形成される過程もしっかり描かれてる。そこに400頁以上もつかってるからな。
事件と裁判の話なんて最後の100頁だけだよ。
本作はわいせつ事件なんかに焦点は当たっていないのだよ。

決定的な断絶がどのようにして醸成されたのかを淡々と描写していくのが本作。
中学生から事件までの、彼らの人生をなぞっていく。
いかにして自己肯定感の低い女子大生が出来上がったか、いかにして歪んだ思想の東大生が出来上がったか。

自分より劣った他者をバカにして笑い物にしてもいいという驕りはどんな環境が生んだのか。
それを丁寧に紐解いていくのが本作。

東大生を揶揄した小説ではない

んで、この「客観的な指標で自分より下の者をハナから侮る」ってのは誰彼少なからずあると俺は思ってて。著者もあとがきでそう書いてる。いやそんなことは全く思わない聖人もいるのかもしれないけど。
多分この小説は他人事じゃない。

俺だって別に東大でもないのに相手が自分の大学よりも偏差値ランクが下だったり能力が低いと直感すると、無自覚に見下したりする事がある。し、それに気づくとすごく嫌な気分になる。
こいつこんなことに気づいてないなんてバカだな。こいつは『大したことない奴だな』って。
でもそれを思っちゃうのは仕方ないのよ。本能だから。その自覚がなく表に出て本作みたいなことになるとマズいけど。
自覚があるだけマシなのかもしれないな。

事件がネットニュースになった後、大衆が美咲を叩く流れになったのも、そういう心理が底にあると思う。(どうせ)バカ女子大の女が騒いでるだけだと。東大生が悪い””わけがない””と。
何も知らんのにね。

この手の事件には口を出さねえのが花だなって思いました。詳細もわからねえのに憶測でどちらかを叩くのはバカだなって。(ここにも見下しが入る)

いやはや、人間、見下しとは無縁ではいられねえな。

まとめ

まじでとんでもねえもんを読んだ。
力のある一冊だった。お腹いっぱいです。
満足感が半端ないです。
エグい話だけど、こういう思考がめぐる読書は大好き。

しかし東京大学院の人はラッキーだったね。
退学したって東大卒は残るもんな。学部生は退学したら高卒だもんな。
かたや示談に応じて不起訴で東大卒。かたや示談を蹴って前科一般の高卒。
彼らの中にも圧倒的な格差が生まれちまったな。

おわり。