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【ノースライト/横山秀夫】政治家や企業役員の入院は雲隠れなのか


ネタバレを含むので未読の人は注意。


ノースライト


ノースライト/横山秀夫を読んだ。
特にストーリーは好みではなかったが、一点、考えさせられたことがある。


作中、故画家のメモワール建設の入札において、市議との癒着が疑われた建築事務所の所長が入院するシーンがある。
部下である主人公はこれを所謂””雲隠れ””だと捉え「(毅然とした態度でいればいい、雲隠れのために)入院なんかするなよ」と声をかける。
しかし、事実、所長の身体はボロボロだったのである。入札の根回しのため、心身共に疲れ切っていたのだ。ついには病室の窓から落下し、死んでしまう。事故なのか、自殺なのかは最後まで分からないまま。


特に深いことを考えたわけではないが、「入院が雲隠れとは限らない」という点を強烈に印象づけられた。
不正や汚職が発覚した政治家、企業の役員が入院するというのはよく聞く話であるが、多くの人は「隠れやがって」とか「逮捕逃れか」と思うだろう。


だがそうでない可能性もある。政治家や企業の役員は大きな責任がのしかかるポジジョンであり、それに伴うストレスもかなりのものであると推測できる。その対価は確かに支払われているのだろうが、体調不良はまた全く別の問題だ。
まあ別に同情はしないけれども、金持ちなんだし。


ポイントは「憶測を断定口調で発信する」ことだ。


「知り得ないこと、裏付けがないことは断言しない」という、文字にしてみれば当たり前のことを無意識にスルーしてしまう人が多いように思う。俺もかなりやってると思う。

政治家や企業の役員だから話がこじれるのであって、普通の若手社員で考えると身近になる。休みがちな社員がいて、上司が「あいつ休んでばっかりだなーサボってんじゃねえの?」などと口走る。
しかし実は母の通院の付き添いだったり、本人が偏頭痛持ちだったりするわけだ。事情は人の数だけある。そしてそれぞれの事情は他人が介入して程度を判断するものではない。


また、無用の断言は他人を冒涜するだけでなく自分を危険に晒すことにもなる。誤った情報、認識を無責任に発信してしまう可能性があるからだ。
SNSへの投稿は気軽だが、裏の取れてない話を「〇〇は〇〇だ」と投稿してしまうのはかなりの危険を孕む。炎上すれば言い逃れはできなくなる。

特に、ネットニュース等のコラムで、どこの馬の骨かもわからんクソコラムニストがトンデモ理論を無責任に断言しているのを見るととても腹が立つ。最近の新型コロナ関連は特にそれが目立つ。何を根拠にそんなメチャクチャなこと言っているのかと。


断言には責任が付きまとう。


そんな当たり前のことを改めて考え直す機会になった。


「ノースライト」の本筋ではないことをつらつらと書いてみたが、全くの無関係でもないかと思う。ノースライトを通して横山秀夫氏の伝えたかったことの1%くらいにはなるのではないか。

世の中にはそれぞれ背景の異なる人がいて、簡単にわかった気になってる時ほど、すれ違っているのかもしれない。


おわり。

ノースライト

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  • 作者:横山秀夫
  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Kindle版