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八目迷「ミモザの告白」感想&考察 性的マイノリティに対する作者の真剣さが垣間見える大傑作小説 ネタバレちょい


3作めにしてスゲェのぶっ込んできた


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今までで1番いい

ども、サウナ探偵です。
八目迷氏の3作目「ミモザの告白」が発売されたっつーことで、早速読んでみた。

夏へのトンネル〜、きのうの春で〜、と時間系SF×難あり青春ストーリーを世に出してきた八目氏。この2作は「<時と四季>シリーズ」という枠組みの中の作品らしい。

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そんな中、本作「ミモザの告白」は前情報で、どうやらノンシリーズの作品らしいという認識で読み始めた。

細かいことは後で語るとして、これ、今までで1番いいぞ、とだけ言っておこう。
とりあえず何はともあれ読んでいただきたい。


あらすじを書く

ド田舎の高校生、紙木咲馬(かみきさくま)は、かつて仲の良かった幼馴染、槻ノ木汐(つきのきうしお)に苦手意識を持っていた。ハーフで中性的な美男子、人当たりもよく人気者の汐に引け目を感じていたからだ。

ある夜、咲馬は公園で女子の制服を着て泣く汐に出会う。その後、学校を10日休んだ汐は、女子の制服で登校してくる。

教師「今日から槻ノ木くんは女の子になります。」

拒絶する者、態度を変える者、からかう者。クラスメイトの1人が自認する性を表明しただけで、教室は大混乱に陥る…
咲馬と、クラスのマスコット的女子 星原夏希(ほしはらなつき)は、戸惑いながらも女の子としての汐と交流を続けていく。

と、いう話。

出典: 俺

自他や世間に対して未熟な一方で自らを大人だと思っている高校生。そんな危うい環境を舞台に、ジェンダー、偏見、アイデンティティをテーマに他方向から読者を殴りつける傑作小説が「ミモザの告白」だ。

攻めたテーマに対する真摯な姿勢

要するに、(おそらくは)性同一性障害の少年(少女)の話。語り手はその幼馴染。

なぜ「おそらく」なのかを説明する。
作中でホモ、ゲイ、オカマ、性同一性障害、などの言葉が全く使われていないのだ。
登場人物がオカマと言いかけたりはするものの、地の文には一切出てこない。

つまり、いわゆるLGBT(わかりやすい言葉をあえて使う)をテーマに掲げながら、作者として、作品内で見解を示していない。言い換えると「身体は男だけど心は女」という状況に対して名前をつけていない。

これは非常に慎重な姿勢であり、作者のこのテーマに対する真摯な姿勢がうかがえる。

作中の描写としては、「女の子の制服を着たい」「男の子のことを好きになっちゃった」という大きく2点が汐の自認する性を形作っている。逆に言うと、状況証拠的に読者は(なるほど、性同一性障害なんだな)と受け取ることにはなるが、明確に定義がなされているわけでは無い、と言える。

これは紛れもなく意図して定義語を省いており、「性的マイノリティの人を枠にはめたくない」という作者の意思を読み取ることができる。

割と序盤でこれに気づけたので、この話、多分すごい傑作になるな、と安心して読み進めた。

全然ライトじゃねえよ。超、ヘヴィ。
ヘヴィノベルじゃねえかよ。

どういうわけで以降はこの記事内でも「性的マイノリティ」という言葉を使わせてもらう。この言葉には「少数派」以上の意味は含まれないと考えるからだ。

とりあえず試し読み版を読んでみるといい。
かなりいいところまで読める。


田舎の高校という危うい舞台

舞台となるのは田舎の高校。
ただでさえ閉鎖的な監視社会になりやすい田舎という場所。
外を知らない(=田舎の排他的な価値観に疑問を持たない)高校生にとって、身体は男のクラスメイトが女子の制服を着ることは、圧倒的に異質に映る。

受け入れる者がいる一方、当然のように拒絶する者が現れる。
クラスの女王的存在である西園アリサは、汐に嫌がらせを始める。はやく""女装""をやめろと。

気持ち悪いから、気味が悪いから、生理的に無理だから、離れていくだけならばまだいいと俺は個人的に思ってる。これは本人の感想の域を出ないからだ。

ソリが合わない人間と距離を置くのと本質的に変わらない。生理的に無理なものを自らの人生に組み込む必要はない。「分かろうともしない」というのはわかって欲しい側の理屈だ。

マズイのは、本作における西園アリサのように、「間違ってるから正すべき」という姿勢だと考える。

それが正義であると、身体が男である者は男として振る舞うべきであると、それが「正解」であり「然るべき」であると、本気で信じて拒絶する。どこまでも""善意""による""修正""の試みなのだ。本来の意味での""確信犯""であり、和解の目はない。

「受け入れない」ことと、「存在を否定する」ことは、似ているが大きく違う。

都会からの転校生が価値観を揺るがす

この状況に一石を投じることになるのが、都会からの転校生、世良慈(せらいつく)だ。

彼はチャラけた様子の読めない人物で、一般的な恋愛観とは異なる行動原理で動く。
汐を女と勘違いした状態で一目惚れし、男であると判明してからも、「男でも構わない」と、汐に交際を申し込む。

咲馬は世良が複数の女子と交際していることを偶然知り、「お前は不誠実だ。二股をかけるなんて""普通じゃない""。」と糾弾する。
世良は「お互いが納得しているのに何が悪いのか?」と反論する。

世良のことを認められず「気持ち悪い」と感じた咲馬は、西園アリサも汐に「気持ち悪い」と言ったことを思い出す。

これをきっかけに、咲馬は、自分が世良を許せないことと、西園アリサが汐を認めないことが本質的に変わらないことだと気づく。
他者の偏見に嫌悪を抱く一方で、自分が認めることのできないこの感情も同じ偏見なのでは無いか、と。
偏見にまみれていたのは、実は自分なのではないか、と。

本作は、表向きには性的マイノリティをテーマにした話に見えるが、根底にあるのは「偏見とは」という問いかけではないかと思う。

作者はおそらく偏見が含まれない描写となるようかなり気を付けている。神の視点からはニュートラルに記述することを。

ライトノベル的な”男の娘”的な茶化しが全くない。
本作はラブコメでは全くない。


これ汐が美男子じゃなかったら成り立たないのでは?

とはいえ、よく考えてみると、この話は汐が圧倒的美男子だったから成立するのかなと思ってみたり。女の子の制服を着ても難なく似合っちゃう子が性的マイノリティだとしても、読者的にはすんなり受け入れられるというか。

やっぱり世の中、性的マイノリティに対する偏見って、どうみても男っていうゴツめの身体で化粧したりスカート履くのが””本能的な””違和感になるわけで。
ガチンコで性的マイノリティに挑むなら、こういう本能的に拒絶される度合いが強い形にしなければならない。美少女にも見える男の子、だと問題提起としては弱い。

この「偏見をテーマにしつつ、登場人物が読者に受け入れられやすい様に意図的にデザインしてある」というのは著者的にも悩ましい部分だったんじゃないかなって勘繰ってみたりする。

かなり考えて書かれているので、「可愛い女の子風にしちゃえ、こういうの好きでしょ」って安直なキャラクターメイキングはしていないと思う。

とはいえこの辺りは、ライトノベルのレーベルから出ることもあってエンターテインメント性とのトレードオフなのかなって。邪推している。
こういう本質に寄った上でエンタメにも振ってる話を出せるのは、ガガガ文庫というレーベルの強みだなあって思う。

え?続くの?

1巻完結のつもりで読んでいたので、ラストには驚いた。
圧倒的に続編を匂わせる終わり方。
そして作者が続編を明言していたので安心感がハンパない。

1巻における大きな事件は一応の解決を見せるが、問題は山積み。
見所は 咲馬→夏樹→汐→咲馬 というループする三角関係ですかね。

テーマ的にもだらだら続けるような内容じゃないっぽいので、5巻以内くらいでスパッと決めて欲しいところ。

まとめ

八目迷の最新作「ミモザの告白」を感想交えて紹介した。
正直に言って、今年の暫定1位っすね…。

ライトノベル的な要素は押さえつつも、テーマは骨太というか、十分に読ませる作品だと思う。汐が性的マイノリティである故に、ループしてしまう三角関係が悩ましい。

性的マイノリティという概念に関して、主人公サイドで腹落ちし始めているので、次巻はもう少し砕けた話になってきたりするのかな。

すげぇ楽しみ。

おわり。

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