鈴と小鳥とそれから私とサウナ

「サマータイム・アイスバーグ」by新馬場新 感想&考察


書影が出た時から楽しみにしてた一作「サマータイム・アイスバーグ」by新馬場新 を読んだ。
個人的には微妙に合わなかったのだけど、好きな人は多いと思う。

というか、俺も夏は好きだしSFも好きだし、こういう話は本来は大好きなはずなのになんで合わなかったのか、分析しておきたい。

駄作とは思わないし、否定する意図もないです。

おススメポイント
・夏!海!青春!
・タイムトラベル
・三浦半島・三崎
・キャラクターの関係性
・プロットは好き


個人的に微妙だったところ
・視点人物の転換がサイレントすぎる
・要素が詰め込まれすぎで迷子になる
・SF部分、政治的な干渉の部分をもっと丁寧に書いてほしい
・結局タイムトラベルした意味


端的に言うと、「本筋は好きなのに文体や枝葉の要素が(俺にとっては)ノイズになってしまった」というところかもしれない。

読んでいて苦しめられたのが、なかなかストーリーに入り込めないということ。
それは、視点人物が何の断りもなくコロコロ変わったり、本筋にあまり関係のない要素(しかも重い)が急に出てくることに要因があると思う。迷子になってしまったのだ。ここにつきる。

ある程度の重さを持ったエピソードって、本筋に効いてくるだろうって身構えるものだと思う。それがあまり効いてこないもんだからあれは何だったんだとなってしまった。

逆にアニメとかの映像ならすごく楽しめるのかもしれない。視点人物問題は解消するはずだから。
テレビアニメならば羽の家族話とか一樹のトランスジェンダー話とかも全体の中の1話として、キャラクターの掘り下げ回として機能するはず。
(余談だけど、性自認が違うと言う話がある一方で、好きになるのは同性だみたいな表現もあって、トランスとホモセクシャルが切り分けられてないあたりはいただけないなあって思った)


全校集会の羽との会話で先生の正体が示唆されるくだりは、本作の中では好きなシーンだし結構大事なこと言ってるポイントだと思うんだけど、なんだかさらっとしてんだよなあ…。

自衛隊に離婚した両親がいるのとか、誰がタイムマシンを作ったのかとか、未来での先生のパートナーの話とか、日暈の正体とか、終盤でいろんな伏線が回収されていくのは見どころではある。
けど、もう少し丁寧さが欲しかった。言い方を変えればカタルシスが欲しかった。

どういう人が書いてるのか知りたくてインタビュー記事を読んだのだけど、シリーズの1作目のような状態ではなく1冊の完結したお話を意識しているとのこと。
ln-news.com

ラノベの賞は他よりもシリーズを意識したような作品が多くなるのは傾向としてあるんだろうと思うし、完結させたものを作るという信念は素晴らしいと思う。だからこそやや要素過剰気味に思えるのかもしれない。
ただし、映像化を目指したビジュアルに強そうな作品を書きたいみたいな話もあるので、もしかしたらこの指摘は的を外しているかもしれない。
ともあれ、映像化したのを見てみたい。俺も。


多分この著者が考えるお話はとても面白くて俺はすごく好みなんだと思う。けど、うまく受け取れない。多分、著者の投げ方と俺の獲り方の双方が噛み合ってないんだと思う。

ほしいデータなんだけど、インターフェースの規格が合わない、みたいな。

なんだか悲しくなってきたよ。おもしれえと思えるもんは素直におもしれえと受け取りてぇな…。

でも評判はおおむね上々の様子なので俺の感性が普通とはズレてる可能性の方が高いと思う。

あとこの表紙メチャクチャいいよね。

以上。