クソデカバカうけのインパクトがすごい映画「メッセージ」の原作の短編集。
全体にサイエンス的ないわゆるセンスオブワンダーをビリビリと感じはするのだけど、ぜんぜん面白くなかった。惜しすぎる。これほどに秀逸なアイデアを持っててなんでどれもこれもこんなつまんねえ話になるんだ。
どれもSFにとどまらない社会風刺の要素があるのだけど、総じて「だったらSFじゃなくてよくない?」という感想。
SF要素でエンターテインメントにする気もないし、社会風刺としてはSFが邪魔になっているというチグハグ感。アイデアは逸品なので面白さの片鱗は感じるのだけど、読み終わって兎にも角にも面白くない。
バビロンの塔
★☆☆☆☆
天まで届くバベルの塔を登って、たどり着いた宇宙の果ての壁に穴を開けたら塔の麓の地面に出ました、という話。
だから何。
初手で一番つまらない。ここでやめても良かった。
理解
★★★☆☆
投薬によって知能が圧倒的に高度になった人の話。
ワクワクはかなりある。すごく期待した。
主人公と同様に投薬で知能が上がった人との最終バトルの流れも良い。
でもなんでこんな中途半端に投げておわりなの。
ゼロで割る
★★☆☆☆
これも同じ。中途半端すぎる。
これまでの数学の概念全体がまるっきり間違っていたという話。1=2を証明してしまい、それにとらわれる数学者の女性の苦悩。
これだけ聞くとクッソ面白そうなんだけど、他に何も考えられなくなって離婚するだけというオチ。
科学はどこへ行った。
この2作みたいな、超越した存在とか、現行概念が崩れ落ちるとかみたいな話ってすごく好きなんやけど、いかんせん適当すぎる。
野﨑まどのエンタメ分を削ってごちゃごちゃ訳の分からん部分と思想を増やした感じ。
だから面白そうな風味は感じるのだけど、読み終わって全然おもしろくはなかったな…。となる。
あなたの人生の物語
★★☆☆☆
よくこんなのからあの映画ができたな。
なんだか小難しいこと言ってるけど、とにかく面白さがねえんだよ。
七十二文字
★★★☆☆
いわゆる前成説、精子のなかにすでに完全な形の人間がいて、それが大きくなるという前提の話。
本作に関しては割と面白かった。問題の発覚と解決の仕方にもカタルシスを感じられた。んだけど、オチが急すぎる。
この短編集の全体を通して言えることなんだけど、オチの付け方が突然で適当すぎる。かなりデウス・エクス・マキナ的。そうなる論理の帰結がない。
アイデアは秀逸なのにストーリーが壊滅すぎて楽しめないからかなり悔しさがある。
人類科学の進化
特にどうでもいい。
地獄とは神の不在なり
★★☆☆☆
天使の降臨時、人が死んだり身体の欠損が起きる。逆に身体障害が治ることもある。
主人公の妻は天使の降臨時に死亡した。信心深かった妻は天国に行った。
神を心から信じ愛したものだけが天国に行けるのだ。
妻にもう一度会うには自分も死後天国へ行くしかない。しかし妻を死に追いやったのは天使、果ては神だ。その神を愛すことなどできようか…。
この理屈はメチャクチャ好きなんだけど、やっぱりストーリーが適当すぎる。
顔の美醜についてードキュメンタリー
★★★★☆
両手放しで面白かったと言えるのは本作だけ。
カリーと呼ばれる処置により、脳の神経伝達の過程において顔面の美醜の尺度のみをターゲットとして不活化できる世界の話。
顔面が認識できなくなるのではなく、視覚情報的には変わらないけどその美醜の判断基準がなくなるという感じ。
子供の頃からカリーを施されていた人は、顔の美醜という尺度が概念レベルで存在していないので、ルッキズムによる差別が生まれない。
逆に普通に生きていた人間の集団で、ルッキズムを排除するために全員にカリーの処置を推奨するようになる。
こういう、「1個のアイデアがあって、その世界では人々の暮らしはどうなるか」みたいな思考実験的なSFが好きだな。俺は。