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「同志少女よ、敵を撃て」by逢坂冬馬 感想&ネタバレ考察 同志少女の本当に撃つべき敵は誰だったのか


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特濃の戦争ノベル

ども、サウナ探偵です。
いま超話題の「同志少女よ、敵を撃て」by逢坂冬馬を紹介しよう。

なんと言ってもアガサ・クリスティー賞で審査員全員が満点をつけたという快挙。ちなみにミステリでは全然ないんだけども。

500ページくらいなんだけど話がスッゲェ重厚で、読むにのメチャクチャ時間かかっちまった。逆にいうとそれだけこの物語に没入したということでもある。
あと、戦車とかライフルの名前調べながら読むことになるからってのもあるけど。

とりあえず、あらすじをチェックしてみてほしい。

あらすじ

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。〜以下略〜
「同志少女よ敵を撃て」カバー裏より



少女狙撃兵というキャラクター性

要は村を焼かれ天涯孤独となった少女が軍に拾われて、凄腕の殺人スナイパーに育て上げられ戦地に赴く話。

この「少女」「狙撃兵」という要素が本作を唯一無二のものとしている。
設定だけをみるとなんだかラノベ臭がすごい。が、全然ライトではない。というか設定っつーか実際の話なんだけどな。
本作自体は創作ではあるけど、第二次大戦中のソ連には、間違いなく「女性で構成された狙撃隊」があったらしい。

目の付け所がシャープである。

こうしてメインキャラクターを少女に据えることで、戦争モノによくある「おっさんばっかりで人の名前が覚えられん問題」を完全に解決している。
一方で全くライトさのない重厚な戦争ノベルなのだ。

非常に画期的な一作と言えよう。

狙撃描写の圧倒的臨場感

本作の魅力はなんと言っても「狙撃描写の臨場感」だと思っている。
まるで自分もスコープを覗いているかのようなリアルが文字から浮かび上がってくるのだ。

スナイパーは軍事用の角度単位「ミル」を使い、目測で数百メートル先の目標までの方位と距離を正確にいい当てる。
訓練初日の彼女たちにはもちろんそんな芸当はできない。だがあらゆる物体の大きさを頭に叩き込み訓練を続けることで、目標の正確な位置を掴めるようになってくる。

こうしてセラフィマや他の少女と共に、読者も狙撃兵になっていくのだ。だから戦場に投入されてからも、彼女たちと同じスコープを覗くような臨場感や緊迫感を味わうことができる。なんというエンターテインメントであるか。対戦車ライフルのシーンがサイコーすぎる。

久しぶりにCODをやりたくなっちまったな。今ならばものすごい戦果を上げられる気がする。気がするだけだけど。

「動機を階層化せよ」

本作中繰り返し語られる文言がある。

「動機を階層化せよ」というものである。

戦闘行動を続ける上で、動機が一枚岩ではモチベーションを高く保つことは難しい。狙撃兵の命を守るための金言とも言える一言だ。

ここで主人公の動機の話に戻したい。
主人公セラフィマはどこまでも復讐心からスナイパーとなった。
母を撃った敵を殺すために。母の亡骸を燃やした上官イリーナを殺すために。

そのイリーナから「お前は何のために戦うのか」と問われ、セラフィマは「 「女性を守るため」と答えた。口から出まかせのようにも見えるが、セラフィマが怒りを感じている事象を突き詰めた結果、この答えになったらしい。

強く達成を望む個別の目的というよりは、抽象化された上位概念である。簡単に言うと大義である。

本当の敵とは誰だったのか

戦地に繰り返し赴くなかで、個々の目的は達成される。または達成されなくても良くなる。
セラフィマからは根源的な目的はなくなり、「女性を守る」という大義だけが残る。

本物語の最後には、戦争は終結する。
大義のみが残ったセラフィマが最後に撃つことになるのは、果たして誰なのか。
刮目せよ。

まとめ

「同志少女よ、敵を撃て」by逢坂冬馬を紹介した。
ラノベっぽい舞台設計とは裏腹に超骨太の戦争モノだった。極上のエンターテインメントである。
今冬、これを読まずして何を読もうというのか。

もう一度いうが本作はエンタメである。
どうも「戦争の現場も知らない青二才が独ソ戦を描くなんて」みたいな批判の向きもあるようだ。誠に笑止である。お前は戦争を知ってんのか。
本作は歴史小説ではないのだから。独ソ戦を題材にしたエンタメ小説なのだから。

そんな的外れな批判をするような不届き者は500m先でスコープの中央に捉えられているに違いない。

おわり。

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