このミステリーがすごい!2021の4位「法廷遊戯」を読んでみたぞい。
現役司法修習生が書くリーガルミステリー
ども、サウナ探偵でござる。
このミス2021で4位の「法廷遊戯」を紹介してみるぞい。
著者の五十嵐律人氏は現役の司法修習生とのこと!すげえなあ。
医師とか弁護士と二足のわらじで小説家やってる人ってマジですげえよ。俺なんか会社員なのに、ほとんど毎日定時退社してるのに、短編の1つも書けねえよ。
で、そんな超人五十嵐律人氏のデビュー作が「法廷遊戯」だよ。
法廷遊戯/五十嵐律人 #読了
— サウナ探偵 (@krsw_lapin) 2021年1月18日
ロースクールの模擬法廷で開かれる私刑ゲーム。ゲームの中心人物3人が、1年後に被害者と被告人と弁護人になる実際の殺人事件を描く。
社会派の法廷モノってゴチャゴチャこねくりまわして訳わかんなくなっちゃう印象あるけどかなりアッサリめ。胃もたれなし。#読書垢 pic.twitter.com/liCAA9IvaQ
超要約あらすじ
まずは簡単に要約してみる。
司法試験合格済みの結城馨(かおる)。
犯罪歴のある久我清義(きよよし)。
清義と同じ施設出身の織本美鈴(みれい)。
ストーリーは清義の視点で語られる。
3人は同じロースクールに通い、「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる学生同士で決めた全員合意による私的制裁のゲームを行っていた。1年後、3人は同じ裁判に、被害者、被告人、弁護人、それぞれの立場で関わることになる。
事件の真相とは?施設時代の過去に何があったのか。そして判決の行方は…?!
2部構成で、1部はロースクールで行われた「無辜ゲーム」の話。無辜とは罪を犯していないということ。英語で言えばイノセンス。
2部は3人がそれぞれの立場で関わることになる裁判の話。
無罪と冤罪
無罪と冤罪の違いとは?
物語序盤で投げかけられる問い。
本書を読むまで、深く考えたことのない話だった。
無罪、無実、冤罪、どれも似たようなニュアンスで使われることが多くて、明確に定義をイメージしたことはなかった。
無罪とは、検察官が罪を証明できなかったこと。つまり実際に罪を犯したかどうかは関係がない。
冤罪とは、実際には罪を犯していないのに、裁判で有罪を宣告されてしまうこと。
この2つには明確な違いがあった。
無罪かどうかは裁判官が決めるが、冤罪かどうかは本人と神にしかわからない。
要するに、無実(=やってない)の人が司法によって罪に問われてしまうことが冤罪なのか。
なるほどね。
そう考えると、無罪と冤罪の印象は全くちがってくるね。
本作は、無罪と冤罪、そしてしきりに登場するワード「無辜(むこ)」の意味するところについて読者に投げかける作品になっている。
構成の妙
1部2部に分かれている本作、なんとも構成がうまい。
1部では無実、無罪、冤罪、無辜ということについて、徹底的に読者に印象付ける書き方がされている。無辜ゲームという私的制裁ゲームの巧妙なルールがそれを違和感なく頭に滑り込ませてくれる。
無辜ゲームを簡単に説明する。
ゲームは告発者によって開かれる。告発者の指名した犯人について、証言などから裁判官が犯人かどうか判断する。というのが一連の流れ。
面白いのはその後の手続き。
告発者と裁判官の見解が一致すれば、告発された人間は罰を受ける。一致しなかった場合、告発者は無罪の人間に罪をきせたことの罰を負う。
このゲームのミソは、実際にどうだったかは関係ないということだ。告発された人が本当に犯人だったとしても、それを証明できず、裁判官に無罪判決されてしまえば犯人は逃げ切り、告発者は二重の苦しみを味わうことになる。
このゲームが全員同意の上で治外法権的にはたらき、私的制裁が行われていた。
この無辜ゲームを通して、読者は1部を読み終えるまでにそれぞれの意見や違和感、憤りや主張を持つことになる。
それをかかえて読まれる2部の結末には、100人読んだら100人に違った読後感があるだろう。
考えさせられることもあり、ストーリー自体も興味深くおもしろい。
本作がデビュー作みたいだけど、今後も法廷モノを書いていくのかな。たのしみだな。
なにはともあれ、ぜひ読んでいただきたい一冊でした。
おわり。
この記事を気に入っていただけたら、Twitterフォロー、はてなブックマークお願いします。
Follow @krsw_lapin
他の記事