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池上彰「なぜ、読解力が必要なのか」感想 不条理なコロナ時代を生き抜く情報選別力を養う

社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか? (講談社+α新書)

こんな人向けの本だよ。
・私立文系コースの高校生
・自分の周りは話が通じねえ奴ばかりだと思ってる人
・自分は読解力が高いと思ってる人

読解力と伝達力の切ってもきれぬ関係

サウナ探偵です。

池上彰氏の最新本「なぜ、読解力が必要なのか」を紹介しよう。

なろう系ラノベ並みに何について書いてあるのか明確なタイトル。タイトルにピンと来た人はこれ以下は読まなくていいので本書を買って読もう。

本書で言うところの「読解力」は何も「この時の作者の心情を答えなさい」ということではない。論理的思考力、共感力、理解力。情報を捉えるためのあらゆる力の総称としての読解力である。

そして読解力について説く池上氏の文章は非常にわかりやすい。
わかりやすく人に伝えるためには「相手の背景や理解度を把握する”読解力”」と、「相手の知識レベルに噛み砕いて説明する”伝達力”」が必要であるとよくわかる。この二つを合わせて「コミュニケーション力」と言えるのではないだろうか。

伝える力 (PHPビジネス新書)

伝える力 (PHPビジネス新書)

  • 作者:池上 彰
  • 発売日: 2007/04/19
  • メディア: 新書


本書では上記のうち読解力の方に比重を置き、なぜ必要なのか、どうやって高めるかについて教えてくれる。

本書の主張

俺が読み取った本書の主張を以下に示す。

・世の中は不条理である
・不条理から身を守るため、読解力を養いものごとを正しく理解する必要がある
・「知識」は運用することで「教養」になる
・自分に合った本を読んで読解力を伸ばそう


なお、筆者の意図と異なっていたとしてもそれは俺の読解力(まさに)のせいであって筆者のせいでは無いことを断っておく。

本書のここが面白い

池上彰氏の著作はあるテーマについて様々なトピックスを取り上げる形になっていることが多い。一つの主題を通して沢山の具体例に触れることができる。この引き出しの多さはジャーナリスト故だろうか。

本書で取り上げられた話題の中から、特に興味深かった話を紹介してみる。

メディアの人間は文系が多いので統計の考え方に弱い

これは「日本の子供の読解力の世界順位が落ちているが、はたして本当に読解力が下がっているだろうか?」という文脈の中で語られている。

実際には、「順位としては落ちているが、近い順位の国のスコアはだんご状態で、統計的な有意差はない≒まぐれ」である。

しかしメディアの人間には文系が多く、統計学の有意差という考えがない。そのため目に見える順位のみに着目して騒ぐという話だ。そんなんほとんどデマじゃねえかよ。

なんか0点が変なグラフとかよく話題になるしな。意図的なのか、考証が足りないだけなのか、いずれにしても大衆の印象を左右する悪質な情報であることは間違いない。

パソコンを持ってない大学生は学力が低い

パソコンを持ってない大学生は有意的に頭が悪いらしい。

それはまあ、なんとなく、想像はつく。

ツイッターのリツイート機能の開発者曰く「リツイートは人類には早すぎた」

読解力の無い人が無闇に真偽の不明な情報を拡散できるという点がである。

リツイートの人類に早すぎた感を特に感じるのは昨今の新型コロナ関連のツイートだ。36度のお湯でウイルスが不活化するとかいうデマが拡散される状況である。これを聞いた時に「人体も36度だからこれは嘘だな」と気づけないならば、脳内の情報はただ情報として存在しているだけに過ぎず、全く活用されていない。

同章で紹介されている「地獄への道は善意で敷き詰められている」というヨーロッパの格言、まさにこれが起きていると感じる。
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ツイッターの誰でも何でも発言できるというのは利益と害悪の表裏一体だなあ。もう許可制にしちゃえよ。



本書では上記のように様々な具体例をとり、読解力とは何か、なぜ読解力が必要か、ということを教えてくれる。

ここは反対意見

「小学校でのプログラミング教育には懐疑的」という池上彰氏のスタンスは初めて知った。

その心は、算数をしっかりやっていればプログラミングも理解できるはずだから、理科や社会の時間を削ってまでやるのはどうか、ということであった。

このスタンスに関してはやや反対だ。

プログラミングとは答えの決まった文法や式の勉強ではなく、「問題解決方法の模索」だ。
数学が机上の数字いじりだとしたらプログラミングは現実の事象いじりだ。

たとえば「掛け算九九の表を作ってください」という出題では確かに算数と変わらない。答えも数通りしかないだろう。

だが、「1から9の数字を使ってできる全ての掛け算を見やすく表現してください」ならば実現方法は多様化するだろう。掛け算九九の直行表を作る生徒もいれば、式もふくめて箇条書きし、それぞれの段が枠で囲まれるような表現をする生徒も出てくるだろう。

つまり”要求仕様”に対する”実装仕様”と”設計”のプロセスを考えてもらうことこそがプログラミング教育のキモなのではないか。回答が一意に定まらない、アルゴリズムの模索こそが狙いなのではないか。

数学で培う「論理的思考力」を内包する上位の概念が、プログラミングで培う「問題解決力」である。
そして問題解決力は、本書で言うところの「論理的読解力」「情緒的読解力」のどちらとも親和性の高いパラメータではないかと思う。

別の章で語られる「私立文系コースの高校生は理系科目をやらないから、大学に入ってから論理的思考力がなくて苦労する」という点も義務教育でカバーできるのでは?


あと全然関係ないけど全体に安倍前首相ディスがすごくて笑ってしまった。

あっちこっちの偉人の言葉を引用してるけど、それが語られた背景に言及されず、中身が伴ってないのでクソ、という感じのボロクソ。たしかに引用だって言われなきゃ気づかなかったわ。それは言わば盗用に近いのでは…?
まあ安倍さんも大変だったんでしょう。知らんけどさ。


おわり。

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