PCRって何かわかります?
ども、サウナ探偵です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、「PCR検査」という言葉がここ一年で急にメジャーになった。
多分PCR検査という言葉を聞いたことがない人は、もはやごく少数だと思う。でも、本質的にどんなものか理解してる人は1%もいないんじゃない?
その前にお前は何なんだよって話になると思う。一応身分を明かしておくと、俺は生命工学の修士号を持っていて、PCRは学生時代に何百回もやってる。
医療機器メーカーに勤めていたこともあるので、薬機法もちょっとかじってる。
だからまあ、まるっきり素人が適当なこと言ってるわけではないってだけ、ね。
まずPCRって医学用語じゃなくて生物学用語なんだよ。
そこで、PCRがどんなものか、ちょっと説明してみたいと思う。あくまでざっくりと、なるべく簡単にということを心がけた。
ということで、本記事については以下の点に注意されたし。
・生物のテストには役に立たない
・PCRの医学的な立場、有用性には言及しない
・モデル化が目的なので生物学的に厳密ではない
あくまで、「ざっくり」ということ。
PCR=倍プッシュ
PCRはアカギだ。
アカギ 〜闇に降り立った天才〜 第2巻より
※倍プッシュ…ギャンブルで、ベットを2倍にすること。
PCRとは倍々ゲームでDNAを増やす「手法」だ。
簡単に言えばこれだけ。
世界一簡単なPCR、おわり。
いや、もう少し詳しく例示してみる。
下の絵のように、図書館の本の中から、ある本の1ページを2枚コピーする。
これを2人に渡して、さらにコピーすると全部で4枚になる。
これを4人に渡して、さらにコピーすると全部で8枚に…。
続けていくと、2,4,8,16,32,64,128…と、ある1ページだけが爆発的に増えていく。
これとおんなじことをDNAでやるのがPCR。
図書館(全てのDNA)から、ある本の1ページ(特定のDNA)を選んで、そのページのみを延々と複製(PCR)する。
図書館にその本(新型コロナウイルスのDNA)があれば爆発的に増える。
図書館にその本がない、もしくは探せなかったら、全然増えない。
たくさん増やせた場合は、当然見つけやすくなる。一粒の塩は見つけられないが、1キロの山になってたら見つけられる。
これでイメージが掴めたならもうこれ以降は読まなくてもいい。
ちなみにこの「探せなかったら増やせない」というのは超重要。
検出できなかったからといって、「存在しない」ことの証明にはならない。
「見つかる」の反対は「無い」じゃなくて「見つからない」なんだよな。
そもそもPCRって「実験に使うDNAを増やす」ことを目的とした技術だから、「増えなかった」ことを根拠にするのはどうなのかな?っていうのが生物を学んだ立場からの印象。
機械の不調とかやり方が悪いとか試薬がダメになってるとか、検出されない要因はいくらでも考えられる。
でも逆に機械がいつもより調子良かったから検出出来ないはずのものが検出できるってことはない。
医学のことは知らん。なので何も言わない。
・PCRはDNAを増やす手法
・PCRは倍々ゲーム
・増やせたらかなりの確度で存在すると言っていい
・増やせなくても存在しないとは言えない
基本的にはここまでで大丈夫。
次章以降はもうちょい入り込んだ話になります。
DNAがまずわからない人
DNAって何って人はこっちもどうぞ。わかる人は飛ばしてOK。
DNA(デキオキシリボ核酸)とは、細胞内の化学物質。鎖みたいな形をした、生物の体の設計図。
DNAは4種類あって、それぞれA,T,G,Cと名前がつけられている。DNAが鎖のように繋がってできた並び順で、例えば瞳の色のような、身体の特徴が決まる。
ATGCCGCTGGGT〜みたいなかんじ。この並び順が人間の体の全てを決めている。
こういう「意味のあるDNA」を「遺伝子」って呼んでる。意味のないDNAもあって、そっちは非コード領域なんて呼んだりするけど、ここでは覚えなくて平気。
で、人間と同じでコロナウイルスの形もDNAの並び順で決まる。(本当はRNAだけど原理の説明には重要じゃないので省く)
従来のコロナウイルスと新型コロナウイルスは大部分のDNAは同じだが、わずかに異なるDNAがある。
※この絵はイメージだけの問題で、細かい点は全く正しくないです。
その違うDNAだけを狙って倍々ゲームで増やして、新型コロナウイルスの"DNA"を検出するのがいわゆるPCR検査。こんだけ。イメージできれば、何のことはない。
・DNAは生物の形を決める設計図
・従来のコロナウイルスと新型コロナウイルスのDNA(本当はRNA)は大部分が同じだが、ちょっとだけ違う部分がある
・そこを狙って増やすことで検出する
もうちょっと専門的な原理の話
もうちょっと専門的な話をしてみる。
そのためにはまずPCRが何の略なのかわかっている必要がある。「ポリメラーゼ連鎖反応」だ。
「ポリメラーゼ」とは、細胞内のDNA工場で働いてるDNA職人と思って貰えばいい。気持ちいい温度になるとDNAをたくさんつくってくれる気分屋さん。
DNAは実は2本の鎖が一列にくっついた構造をしている。AはTと、GはCとくっついてる。これが正常な状態。温度を90度近くまで上げるとはがれて1本ずつになる。
でも1本になっても反対側のATGCがどういう並び順だったかを覚えている。
次に60度くらいに下げると、1本になったDNAに目印がくっつく。
次に70度くらいに上げると、ポリメラーゼさんがやる気を出す。目印を見つけて、1本になったDNAに材料をくっつけて修復していく。
そうすると一列にくっついた2本の鎖が2組できる。
これを繰り返すとDNAが爆発的に増える。
本当はもっとややこしい話なんだけど、別に研究者じゃないならこれくらいでいい。
これ以上のことは生物の教科書を見てくれた方が早い。
・PCR=ポリメラーゼ連鎖反応
・DNAは一列にくっついた2本の鎖
・1本ずつにはがしても相手を覚えている
・それをはがしたり修復したりして増やす
まとめ
PCRについてできる限り簡単に解説してみた。
専門用語の意味を含めて理解しないと本当の意味では分かったことにはならない。しかし、ふわっと「DNAを増やす手法なんだな」って思ってもらえれば本記事の目的は達成されたも同然だ。
PCRに限らず、ある技術が何のために生まれ、どういう原理なのか(=どういう立ち位置の技術なのか)を知ることは重要だ。
技術を正しく利用するには、その技術を知る必要がある。ブラックボックスの部分があってもいいが、基盤的な考えはおさえておく方がベターだろう。
おわり。
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